Column

2023.03.20

「効きすぎ」について

巷では振動対策をやりすぎると「効きすぎ」という現象が起こると、よく言われます。
何故でしょう? 不思議です。
不要振動を取りすぎると何故「効きすぎ」となるのか理解できないでいました。

しかしセレニティの開発段階においてそれが起きたのです。
あからさまに、ハッキリと。
オーディオに無関心の、我が妻でもはっきりと違いが判るほどです。

それは、カートリッジスペーサーの開発の時に起こりました。

当時のシステムは
プレイヤー  パイオニア PL-50L(オイルダンプOFF)
カートリッジ DENON DL-103
でした。

先ずはアームからの不要振動を徹底的に取ってやれ、ということでカートリッジスペーサーを装着し尚且つトーンアームに厚さ1mm、幅5mmの制振樹脂をアームパイプの根本、中間、先端に巻き付けるように張りつけました。
そうした途端に「効きすぎ」現象が発生したのです。
「音がやせて物足りない」そんな感じです。
スペーサーや制振樹脂を着けたり外したり、何度やっても同じでした。

そんな時です、新潟市でオリジナルアンプの製作とノイズキャンセラーで高名な、「デバイス(株)」の田中社長に言われたのです。

「井上君よ、効きすぎなんてないのだよ。」
「今までノイズ混じりの音を聴いていて、急にノイズが無くなるから寂しく感じるだけさ。」
「添加物だらけインスタントのお吸い物から、凄腕料理人のお吸い物を飲んだようなものさ。」
そして
「効きすぎを感じたら、そこで止めてはだめ、そこで元に戻すから進歩が無いのだ。」
「効きすぎは、トーンアームを改善したことにより、他の不具合箇所が表面に現れてきただけ。」
「あきらめずに、あらわになった不具合を探しなさい。」
と、
私は、この意見を素直に受け入れました。
それからの改善作業は悩ましくとも楽しい作業でした。

結論から言うと効きすぎと感じた原因はパワーアンプにありました。
当時の私は定価15万円くらいのプリメインアンプを使っていました。

試行中にプリメインアンプにはプリアウト機能があることに気づき、真空管パワーアンプを借りてきて試聴しました。

結果、驚くほどの違いでした、「音やせ」などなく中低音に明らかな違いがありました。
不要振動を無くしレコード再生の情報量が豊かなまま「音やせ」を解消しました。
以来、プレイヤーのトーンアームにはカートリッジスペーサーの装着はもちろんの事、アームパイプにも制振樹脂を貼り付けたままでいます。

どうやら、私は不要振動による音の曖昧さ、ブーミー感を、音の厚み、良い音と勘違いしていたようです。

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